昨日は友人たちと三宮にて飲む。
男のほうは神戸市内の美術館に足を運んだ帰りであり、展示されていた画家のファンだという女のほうと画家について話が盛り上がっている。
その方面にはとんと無知は私は聞き役に徹するしかない。
少し前の私なら、のけ者にされた、とヒガミ根性丸出しで、なにかと余計な茶々を入れ、なんとかその話柄をぶち壊しにかかったものだが、人間丸くなったものだ。
(ふーん、そんな画家がいるのか。しかしこいつらたいしたもんだ。よく知っているんやな)と感心しながら、黙って拝聴に預かっていた次第であったのだ。
彼と彼女の芸術談は、しかしいきなり「蒼井優が高層ビルの建築現場最上階の狭い足場で助けを求めていたら助けに行くかどうか」という話になって、いや俺は高所恐怖症だからいくら蒼井でも無理無理と男は手を振り、女のほうは、蒼井優が山田孝之なら助けに行く、と答え、じゃ飼っている猫ならどうか?となり、もちろん助けると。その流れであんたなら足場に誰がいたら助けに行く?と私に話が振られてきた。
その時の私は、酒場に置いてあるテレビが消音状態で、北朝鮮で拘束されたアメリカ人が解放され帰国したとたん死んだ、北朝鮮はアメリカ人に何をやったのだろうとか、とのニュースを報じており、それを見るとはなしに見ていて、今後米朝関係はますます悪化するやろなと案じていたところへ「足場に誰がいれば助けに行くか」ときたのである。
(またほんまにしょうむないことを。知らんがなそんなこと。こいつらときたら)と呆れながらも、さあわからんなあ、まあ俺は足場に誰がいても助けに行くどころか、そこからさっさと飛び降りて死んでまえと言う、と適当に答えを返す。
しばらくこの話題でああだこうだと、3人の年齢を足せば170歳をゆうに超えるおっさんとおばはんが喧々囂々と語り合っていたかと思うと、男が突然立ち上がり、このTシャツええやろ。ハシビロコやで、と言い始めた。
女は、いやほんまやハシビロコや、ええやんそれ、と男が誇らしげに見せている背中にプリントされた絵を褒めちぎる。
(ハシビロコと聞こえたが、おそらく女性であろうデザイナーかイラストレーターが描いたんかこれ)と私も見ていたのだが、二人の話を聞いていると、どうやら「ハシビロコウ」という名前の鳥がいるらしい。その鳥は獰猛でなんちゃらかんちゃらで、らしい。
鳥なんぞは鶏コケコッコーか雀チュンチュン、鳩ポッポー、燕スイスイ、後は鷲とかコンドルとかペンギンくらいしか思い浮かべない私はすんでのところで、ハシビロコって誰やねん?そんなイラストレーターがおるんかいな、と訊くところであった。まさに大恥をかくところであった。
この大恥はこれから先、ずっとこやつらの酒の肴となり語り続けられるだろう。そういう奴らなんやこいつらは、ンマにもう~。おまえらが足場から墜ちてまえっちゅうねん。200階くらいの高さから。
店を出て、お決まりのカラオケルーム繰り込み。ジャスト2時間の歌合戦。歌ののど前は男抜群に上手い、女そこそこ上手い、私話にならない、のいつものパターンである。
170歳トリオはその後プリクラに入る。撮れた結果を見てひとしきりはしゃぐ。
やっていることはJCかJK、被写体はJB(ジジイとババア)である。時間帯からしてCとかKのほうはさすがにいない、というよりたしか午後7時以降はお子たちは入店禁止だったか、この手の店は。
「おつかれさん」と3人それぞれの家路に足をふみだし、ここに今宵の酒宴お披楽喜と相成る。
家の最寄駅から降りた時、小雨がぱらつき始めた。夜半から大雨に注意という予報があっただけにこれはツイていたのだが、当然、西の上空にいつも光っている金星は見えない。
一昨年だか、ちょうど同じ場所で流星を見たことがあった。初めてのことだった。おおっ!と見据えた瞬間、鋭く煌いていた光の細長い尾があっという間に闇に吸い込まれていった。
誰と飲んで歌って騒いでも、終わればなんとも言えない一抹の寂寞感に包まれる。躁と静の落差の大きさはあの時見た流星に似ているものがある。
そういえばさっきのカラオケで谷村新司が唄われていたな。谷村の「Far Away」ではなかったが、一度見た流星のブレードのような光芒の軌跡を思い出すと気分はこの歌だ。
星が消えいった先はあまりにも遠すぎるが、あくまで私の視界から消えたのであって、遠く離れた別の場所で燦然と輝いているに違いない。