北小へ行く途中にめちゃきれいな桜並木があるんや。
そこへさしかかったわしは思わず足を止めて、満開の桜に見入ったもんや。
時々吹く弱い風に花びらが舞い落ちる。
その中を腰にチャカ、エアガンやけどなてもうええか、を差し込んでミナ小へ殴り込みかけるわしは、さしずめ『唐獅子牡丹』の健さんみたいやで。
あっちは着流し、巻いた晒しに長ドス呑み込ませ、雪駄をチャラッチャラッと鳴らしてちゅうやっちゃが、こっちは上下「しまむら」で買うたジャージに玩具のテッポ挟んで、ラバーがすり減ったビーチサンダル、ペタペタいわしてって、えらい違いやけど侠(おとこ)の心意気に変わりはあるかいや。
川口、木村待っとけよ。
教え子をカタに取られた怒りも手伝うてや、カチ込みにかけた気分がぐっと盛り上がり自然に鼻歌も出てくるがな。
「ぼ~~くらはきっと待っている~君とまた会える日々を~さくら並木の道の上で~♪」
「おい、センせそこはやっぱ『唐獅子牡丹』やろが。義理と人情を秤にかけりゃ~義理が重たい男の世界~~♪」
前方でえらい音痴な歌が聴こえてきたんで、誰やいなと見たら、わりと大きな桜の木の後ろからから出てきたのはバルタン星人。
たしか6年2組のやっちゃ。
「ホシトやないけ。なんや?さっさと家に帰らんかい」
「センセ、どこ行くんや?」
「どこなとええやろ。おどれには関係あらへん。ほれ、下校時間もとっくに過ぎてるがな。宿題もあるやろが」
「ミナ小へ行くんやろ?。話は聞いたで。ボクも連れてってくれや。川口君や木村君には一方ならぬ義理がおますんや」
「あかん、あかん。なんでもええけどおまえ声変わりもしてないのにそんな低い声よう出せるなあ」
「そんなこと放っといてくれや。なあ、なあ、なあて。連れてってくれや」
「あ。こら。服をつかむな。おまえにつかまれたらたとえドンゴロスでも破れてしまうがな」
「いやや、連れてくれるまで離したれへん」
「ドあほ!可愛い教え子連れ戻すのに教え子についてきてもろた、と言われたらわしが恥かくんや。北小の鬼沢龍二は先公の風上にも置けんヘタレのガキや、ちゅうてこの世界では誰も相手にしてくれんようになる。必ずわしが川口らを助けだすよって、おどれは安心して待ってたらええんじゃい!」
「いやや!絶対ついてったるからな」
「おまえもわからんやっちゃのう。よし、こうしょう」
「そうしょう、そうしょう」
「まだ何も言うてへんかな。わしと勝負しようや。わしがおどれに負けたら、おまえを連れたる。わしが勝ったら、おまえはこのまま家に帰り。ええな」
「勝負て何のや?」
「はよカタがつく勝負や。わしは急(せ)いとるねん、ジャイケンや」
「ジャイケン?」
「そうや。インジャンとも言うな」
「よし。それでええわ。ボクが勝ったらセンせ約束やで。きょう日の大人は信用でけんからな」
「生意気言うな。いくでぇ、インジャンでほーい」
当然わしはグーを出した。
当然ホシトは負けた。
「わちゃー、負けたっ!ボクいっつもジャイケンでグー出されたら負けてまうねん、チキショー!」
「……何も訊かいでもおまえが相当アホなんはようわかる」
「な、なんでやねん!」
「おまえが勝てるただ一人の相手はミッキーマウスだけや。ドラえもんには絶対勝たれへん。そこをようわかっとけ。さっさとジャージから手を離さんかい!」
跪いて肩をうなだれ、「ボ、ボクも行きたかったのに…」しゃくり上げているバルタン星人を後目(しりめ)に殺してわしは歩を急がせたんや。
ホシトよ、アホやけどおどれの侠の誠はようわかった。
お互い、侠で生まれて侠で死にたいもんや、せやろ。